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「なんかいい」を信じる

#27

スムーズに進むプロジェクトには、ある共通の特徴がある。

たとえば一つのグラフィックデザイン案に対して、プロデューサー、ディレクター、コピーライター、デザイナー、それぞれの立場から専門的な解釈が生まれることが多い。それにもかかわらず、初稿の段階で全員が「これがよさそうだ」と迷わず頷く。この驚くべき一致が、プロジェクトを一気に前へ押し出していく原動力となる。

この一致を生み出すのは、デザイナーの特有の能力だ。デザイナーは、言葉を起点にロジカルに考えることもあれば、膨大な引き出しから「これだ」と直感的に選び出す瞬間もある。そのロジックと直感を“結びつける力”こそ、デザイナーの持つ才能の一つである。
単に整っているだけではなく、「この会社らしさ」が沁み込み、その企業の規模感やありたい姿に寄り添っているか。カルチャーのムードに合致しているか。
そういった“言語化しきれないところ”までもが、優れたデザインを判断する材料となる。

プロジェクトがうまく進みやすい理由のもう一つは、情報を知っている濃度の異なるメンバーによるチーム編成にある。知りすぎることが視点を限定させることもあるし、知らなすぎると核心を外す。そのあいだを揺れ動きながら考えることで、デザインに幅が生まれ、深さが出る。一人では辿りつけない解像度に、チームだからこそ届くのだ。多様な視点を持つメンバーが交わることによって、「なんかいい」デザインが生まれる。

そして、その「なんかいい」という感覚を信じることも極めて重要だ。ブランディングやデザインに、明確な正解はない。売上やKPIは効果を測るための指標にはなるが、クリエイティブそのものの決着点ではない。
もちろん、そこに至るまでの過程は、あらゆる可能性を検証し尽くす疑いの1000本ノックだ。その結果として生まれた「なんかいい」を、最後は制作側もクライアントも感覚として信じ抜く。この「なんかいい」を“信じるプロセス”を共有できたとき、チームは驚くほど強くなる。

最後に大切なのは、チーム“プレー”ではなく、チーム“ワーク”という考え方。
メンバーそれぞれがプロとして自立し、常日頃からインプットや鍛錬を怠らなければ、様々な課題に対して能動的にワークできる。
チームのためにプレーするのではなく、目的のためにワークする。
その目的を共有する思想こそが、プロジェクトを前へ押し進める本当の「チームワーク」だと思う。

「なんかいい」と思える瞬間は、偶然ではない。
言葉とビジュアル、理性と直感、知っていることと知らないこと。
そのあいだに揺れ続けるチームの呼吸がひとつの方向を示したとき、
あの不思議な、「これしかない」という必然のデザインが生まれる。

RYO NAKAGAMI