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「Why」から生まれるデザイン

#28

カット野菜を製造するベストアグリフーズ様から、最初の相談を受けた。製造過程では製品にならない“残渣”が大量に発生する。その残渣に含まれる野菜の皮などにはたくさんの栄養素が含まれていることはわかっていた。これを、何か価値あるものに変えられないだろうか。プロジェクトは、そんな「問い」から始まった。

当初は「女性向けの新しいおもたせになるような何か」ができないかという一つのテーマで、野菜の新しい価値を探った。皮でスープを作るという案もあり、玉ねぎの皮だけで煮出してみたが、どこか物足りない。そんななか、先方のスタッフに薬膳の知見がある国際中医薬膳師の資格を持つ方がいることから、話は一気に広がった。

薬膳には五行思想があり、色ごとに体に作用する効能がある。それを野菜の皮と組み合わせて表現する発想は新鮮だった。玉ねぎの皮と別の素材を掛け合わせたときに色が変化するかいくつも試作を重ねた。この視点がプロジェクトの地図を描き始める。とはいえ、スープ案はやはり決定打にはならなかった。誰かに贈る“おもたせ”として成立するか、体験として嬉しいものかという視点で考えると、あと一歩の手応えが足りなかった。

転機は、ホワイトボードに五行の意味を書き出して整理していたときに訪れた。薬膳と野菜、それぞれの効能をどう掛け合わせられるか議論していたら、ふと「薬菜茶(やくさいちゃ)という文字の組み合わせが見えてきた。その瞬間、全員の目線が揃った。

名前が決まった時点で、ブランドとしての価値が決まることがある。薬膳(薬)と野菜(菜)が交わり、残渣という厄介ごとを新しい価値のある“資源”へと転換する世界観が一気に形になった。野菜によって効能は違い、薬膳の考えがそれを後押しする。ストーリーが生まれたことで、プロジェクトは急加速していった。現在は三種類の薬菜茶が展開されており、どれも“野菜の生命力を飲む”という新しい体験を届けている。

本プロジェクトでは「残渣を有効活用したい」というブレない「Why」を基準に、アイデアを拡張していった。

Whyはプロジェクトの芯であり、強烈な問いがあるとチームの目線は揃う。途中で迷子になるのは、たいていWhyを見失ったときだ。コストがかかる、手間がかかる、儲かるか分からない……そんな言葉が出てくるのは、内側にある別のWhyが表面化しただけだ。

“儲かるかどうか”のみで判断し始めると、Whatにしか目が向かなくなり、凡庸な案ばかりが並ぶ。もちろん儲けることも立派な「Why」だ。マーケットインで徹底的に顧客の要望を満たす企業は強いし、凡事徹底で利益を積む企業も多い。

だが、今回のプロジェクトのWhyはそこではなかった。「残渣を有効活用したい」という絶対的で揺るがない課題意識。これがあったからこそ、みんなが粘り強く、世の中にない価値を生み出す道を探せた。

ちょっとの“ずらし”で新しい価値は生まれる。薬菜茶は、カット野菜という事業が続く限り存在し続け、残渣が資源に変わる未来をつくる。物自体が持つ生命力が、ブランドを持続させていく。だから私は思う。Whyに寄り添い、常に思考を広げ柔軟に物事を考える。Whyが強ければ、そこから新たな創造が始まるのだから。

薬菜茶/プロジェクト
https://mcoinc.jp/薬菜茶

ATSUSHI MARUYAMA