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「金沢の伝統食とデザイン」出会いの必然性。

#24

最初に、金沢こんかこんかの事業承継の相談を受けたとき、
不思議と迷いがなかったという。
──これは、やるべきだ。
デザイン会社としてというより、MCOとしてやる必然を感じ、
社名は「糠乃舎(ぬかのや)」と命名した。
ちなみに「こんか」とは、金沢の伝統食の一つである「サバの糠漬け」である。

金沢こんかこんかは、樽からサバを取り出し、糠を落とし、一口大に切る。
背、腹、尾──部位ごとに食感も脂ののりも違う。
それを一袋に、バランスよく詰めていく。
置く向き、骨の抜き方、触れる手の温度。
どの工程にも、食べる人への想いがにじむ。
その手間の一つひとつが、「デザインの手仕事」と重なって見える。

もしこの仕事が、効率だけを求めるものだったら、
おそらくMCOは関わらなかったかもしれないと話す。
けれど、**“非合理なほどのこだわり”**が、そこにはあった。
魚は日本近海で、お醤油は金沢の醤油で。
味は変えない、手は抜かない。
それは創業者の「信念」でもあり、
いま受け継ぐ人たちの「責任」でもある。

変えないまま続けることが、どれほど難しいかを知っている。
だからこそ、MCOとして“守りながら変える”方法を考えた。
それが、デザインの出番だったのだろう。

ブランディングとは、合理と非合理のあいだに立つ仕事だと考える。
数字や成果という合理性を担保する裏で、言葉にならない想いを拾い、かたちにする。言語化できないけれど「なんかいいよね」と感じる、その部分もしっかり温める。

効率だけではなく、最後は信念で動く。
それは遠回りに見えて、じつは一番の近道かもしれない。
“手をかける”という非合理の中に、ブランドの本質がある。
その考え方は、MCOの仕事そのものと重なっている。

糠乃舎の手仕事と、デザインの手仕事。
どちらも、見えないところで徹底的に手をかける。
やらなくてもいいことも、あえてやる。
そこに、想像を超える“美味しさ”や“感動”が宿る。

だから私たちは、糠乃舎を「事業」としてだけでなく、
信念を再定義する場として続けている。
社会に提供する合理性の裏で、あえて非合理を担う。
それが、MCOという会社のデザインであり、私たちの手仕事だ。

AYUMI KOSHINO
AI TAKASHIMA
KEIRO NISHI