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ストーリーとホームページ

#26

最近、涙流れました?

私は先日、岩井俊二監督のデビュー30周年ライブ
「The Music Works:30th Anniversary of Love Letter」を配信で観ていて、思わず泣いてしまった。

『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』など、これまで岩井氏自身が手掛けてきた劇伴歌の数々の名曲を、豪華アーティストをゲストに招いての演奏。そしてアンコールの最後の最後に披露されたのが、「世界中の誰よりきっと」だった。ライブタイトルにある『Love Lette』は岩井俊二氏の長編映画デビュー作で、中山美穂さんが主演の言わずと知れた名作映画だ。

これほどまでに美しいレクイエムを知らなかった。演奏の間に静かに語られた作品の背景、表情、これまでの歴史、あらゆる要素が幾層にも重なり物語となって胸にしみ込んできて、涙が止まらなかった。こんな体験は初めてだった。

ブランドでも、ホームページでも、キャッチコピーひとつでも、クリエイティブでこんな体験を提供できたらと思う。たとえばホームページをつくるとき、最初の画面に置く言葉は、企業が社会に向けて掲げる小さな旗印のようなもの。その旗印はパーパスで(ときにタグラインだったりとラベルや形式は様々ある)、あわせて書かれるステートメントは、その言葉に込めた意味や意志を言語化した宣誓。言葉はただの飾りではない。企業の意志を表し、共感を呼ぶものでなければならない。

これらがしっかりと定められているホームページは、情報以上のものを伝えると思う。ページが進むにつれ、その企業が大切にしている価値観が少しずつ輪郭を帯びて見えてくる。たった数行のコピーでも、人の心に届くものは体温があるし、体重がのっている。

以前、金沢のある企業とパーパスをつくった際、経営層だけでなく現場スタッフも参加し、活発に意見を交わしながら数ヶ月かけて言葉を探したことがあった。完成したパーパスは、その後グループ会社に入るタイミングで「この言葉は残したい」と全員の総意で継承されることになった。自分たちが自分の言葉で語れるものだったからこそ、組織の“拠りどころ”として機能したのだと思う。

キャッチコピーは戦略であり、同時に信念でもある。
表面的な表現ではなく、企業がどこへ向かうのかを示すもの。
それはきっと、だれかの心に静かな波を起こすことができる。

あの日のライブのように、
一つの表現が、誰かの心に届く瞬間がある。
ホームページもそんな体験が生まれる場所になったら素晴らしいと思う。

言葉が行き先を照らし、
ブランドの未来を少し明るくする。
その瞬間を信じて、私は今日も言葉を探している。

AI TAKASHIMA