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できないのなら動けばいい。

#32

仕事では、調子の波がはっきり見えるときがある。
上手くいく時期もあれば、何をしても噛み合わず沈んでいく時期もある・・・

調子の良い時期というのも確かにある。
螺旋状に勢いがついて、周りを巻き込み、自分で上昇気流を起こしていくような感覚。とはいえ、どこかで怪我をする。かつて「パンチの夜」があった。あの経験以来、軽率に浮かれることは減ったけれど、あの感覚がなければ見えない景色もあるとも思っている。

逆に、うまくいかない時期は徹底的にうまくいかない。
逃げても状況は変わらないから、少しでも突破口をつくれるように会話を増やしたり、人に会ったりしてきた。落ち込んで足が重くても、動くことで変化を生み出すことができることを知った。

今の自分は、昔と比べると「関わる数」が格段に増えた。関わり続けることで、様々な縁にも繋がっていった。縁は偶然のように見えて、実は“動いた回数”に比例するのかもしれない。これはアイデアも同じで、ひらめきが特別な才能のように語られがちだが、結局は数だ。

ある実験で、学生を2チームに分け、一方には「最高のアイデアを1つ出せ」、もう一方には「とにかく数を出せ」と指示したところ、圧倒的に質が高かったのは“数のチーム”だったという。

20kgを一度に持てないなら10kgを2回、5kgを4回に分けて運べばいい。
100kgを一度で動かせないなら、回数でいけばいい。
それがいちばん誠実で、本質的なやり方だと思う。

優れたデザイナーも、例外なく多くの案を出す。完璧なものばかりではないが、量の先にしか質は現れないのかもしれない。頭を広げ、数をこなし、絞り、また広げる。その繰り返しで思考も技術も磨かれていくのだと思う。

上手くいく日もあれば、落ち込む日もある。
風が吹く日もあれば、体が重い日もある。
それでも、数を重ね、今この時も動き続けている・・・

ATSUSHI MARUYAMA