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雨霰が打ちつけて、今デスク前の大きな窓ガラスは濡れて、景色は滲みっぱなしだ。本気の湿り気がやってきて、今年も終わろうとしている。
「湿り気のある金沢」
元市長の山出保氏の著書「金沢を歩く」で知った、作家の五木寛之氏の言葉だ。これほどまで金沢の情緒を言い含んだ言葉はないと感じている。
九州で生まれた僕が、南国からこの雪国へやってきたのは小学生の頃だった。
お正月に凧あげをした記憶はそれ以降ない。
たしかに、全国一位の降雨量という天気はダテじゃない。
それだけでなくこの街の文化、食、自然、そして人。そのすべてが艶っぽく、どこか官能的だ。
表よりは裏、表革よりはしっとり起毛したスエード。
原宿のようなキラキラのポップカルチャーとは対極にある、(よく言えば)奥ゆかしい空気感。
山出氏は同書の中で、「金沢は思索に耽るのに相応しい街である」とも語っている。
街を歩けば上質な文化や芸術に触れられ、お腹が空けば間違いない食がある。
雨の中視線を落とし濡れた道を歩いていると、傘を打つ雨音が自分の内面と向き合う時間をくれる。
景色が滲むのとは逆に、自分の内側の輪郭が浮かび上がってくるような感覚。
と格好よく言いすすめたいが、雨が多いのは正直勘弁してほしい。
その山出氏は今年93歳で亡くなられた。
世界からも一目置かれるほどとなった金沢の礎を築いたのは間違いなく氏であり、最期まで、どこまでのビジョンを見通していたのかとても興味深いところだ。
十年ほど前、ご縁あって山出氏と団体での一泊旅行をご一緒させていただく機会があった。一行の中で一番若かった僕には、特に興味を持って話しかけていただき、色々教わったのだが。
「金沢の街は、金沢の人間が作らなければいけない」
と言った、言葉が記憶に残っている。
その言葉は、僕らが向き合い続けてきたブランディングにも深く通じている。
擦られた話だが、ブランディングとは、単に見た目を整えデザインすることではない。
その会社の内面を掘り起こし、そこに集う人たちが企業のアイデンティティを自覚することから始まる。
額縁に飾られただけの言葉でなく、理念やパーパスを浸透させ血肉にしなければ、その魅力が外へ広がっていくことはない。
街も企業も、それを作るのはいつだって、そこにいる人たちだ。
明日から始まる”来年”も、僕らは金沢と東京を往来する。
この湿り気のある街では、静かに、そして深く思索に耽る豊かな時間に触れながら、内側でいよいよに輪郭を現していく自分を裏切ることなく加速させていくつもりだ。
2025.12.31
KEIRO NISHI
