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一年で最も寒さの厳しい2月がやってきました。
金沢こんかこんかを製造する古民家の室温は約5℃、冷蔵庫並みです。過度な発酵を防ぐため暖房をガンガンに焚くことは出来ません。ぬか床は氷のように冷たく、さばの身は尾をつまむとピンと立つほど締まっています。
寒さに震え凍てつく指先を湯桶の熱湯に浸して解凍し、束の間のぬくもりを感じたら、気合を入れ直しまた樽に手を突っ込み包丁を握ります。あまりの寒さに自然と会話は減り、あたりは屋根雪の落ちる音が時々どさっと響くだけ。
そんな普段より静かな作業場で、いつもとびきり盛り上がる話題があります。それは『“もしも”の未来を考える』こと。
もしも、発酵弁当がバズったら?こんか御殿が建っちゃうかも!もしも、次の世代がイベントに出店したら?「ようやってるね〜」って差し入れしてあげたい!もしも、パリ支店が出来たら?カフェも始めちゃう?
正直でまっすぐな夢は、挙げ始めたらキリがありません。そのうちハイになって楽しくなってきます。笑ってお腹が温まったら、また冷たいさばを手に取ります。今は口先だけの夢だけど実現につながっていくのならと、目の前の仕事にポジティブに取り組むことができます。“もしも”を想像して熱く夢を語ることが、真冬の厳しい手仕事のモチベーションになります。
日常会話のワンシーンですが、こうした考え方はブランディングの手法の一つとして、実際のワークショップでも行われます。現状は理解した上で、一旦すべてを無視して思いのままに夢を語ってみる。もしも、100億企業になったら?もしも、世界進出したら?突飛な“もしも”で思考を飛ばすことが普段とは違う部分の頭を働かせることになり、新しい答えを引き出すことにつながります。そしてなにより、立場や世代を超えて夢を語る時間は、とにかく楽しい。
明日はこんかの作業日。凍てつく指先を温めながら、私は夢を声に出します。
AYUMI KOSHINO
