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デザインは、必要?

#23

高校のデザイン学科に通っていたころ、
進路の話をしていた友人がふと口にしました。
「デザインって、別になくてもよくない?」

その子は卒業後、看護師の道へ。
命を救う現場に立つ彼女の言葉は、私の胸のどこかにずっと残っていました。

たしかに、デザインがなくても人は生きていけます。
けれど、誰かにプレゼントを贈るとき、
どんな包装紙にしよう、リボンの色はどれがいいかな、どんなシチュエーションで渡そう、手紙も添えてみようか。
そんなふうに考える瞬間、私たちはすでに「デザイン」をしているのです。

そのデザインの先には、必ず相手を“思う”気持ちがある。
その“思いやり”が心を動かすのでは無いのだろうか。

デザインは言葉だけを聞くと、難しく身近に感じられないかもしれませんが、
“誰もが日々の中でやっていること”なんじゃないか、と。 本来は、“どうすればもっと良くなるか”を考えること。
見た目を整えるだけじゃなく、仕組みや体験をつくる仕事なんです。

たとえば医療の現場。
患者のベッドの高さや、ナースコールの位置、
表示サインの色分け──すべてデザインの力で支えられています。
看護師の友人が働く世界にも、ちゃんとデザインは息づいている。

数学の得意な人が「この世のすべては数式でできている」と信じるように、
デザインの世界の人は「この世のすべてはデザインでできている」と信じている。
それくらい、デザインは世界の“かたち”をつくっている。

だから、「デザインって必要?」と聞かれたら、私はこう答えます。

──「あなたのまわりに、もうすでにあるよ」って。